1. 制定の趣旨
剣道の基本技術を習得させるため、「竹刀は日本刀」であるとの観念を基とし、木刀を使用し
て「刀法の原理・理合」「作法の規範」を理解させるとともに、適正な対人的技能を中心に技
を精選し指導するものとした。
2. 構成
解説書の技およびその構成は、次のとおりである
「基本1」 一本打ちの技 「正面」「小手」「胴(右胴)」「突き」
「基本2」 二・三段の技(連続技) 「小手→面」
「基本3」 払い技 「払い面(表)」
「基本4」 引き技(鍔ぜり合い) 「引き胴(右胴)」
「基本5」 抜き技 「面抜き胴(右胴)」
「基本6」 すり上げ技 「小手すり上げ面(裏)」
「基本7」 出ばな技 「出ばな小手」
「基本8」 返し技 「面返し胴(右胴)」
「基本9」 打ち落とし技 「胴(右胴)打ち落とし面」
3. 基本指針
(1) 所作事は、「日本剣道形」に準拠するものとする。
(2) 習技者に対し、木刀を使用し剣道を正しく体得させる。
(3) 使用する木刀は基本的には日本剣道形で用いるものとするが、幼少年にあっては発育段
階に応じて適切な木刀を使用する。
(4) 基本動作については、「剣道指導要領」に則って指導する。
(5) 習技は基本的には集団指導によるもので、「元立ち」「掛り手」の呼称は相互に平等の立
場で行うという観点から用いた。
(6) 集団指導を効果的に進めるために、指導者による随時適切な指揮の下に行うこととする。
ア. 基本技の選別は、指導者が習技者の錬度に合わせ行う。
イ. 適宜、指揮者の号令を導入するほか、錬度を高めるため「掛り手」だけの要領を繰り
返すとか防具を着けて竹刀で打突させる等の具体的内容や進め方について創意工夫を
凝らすこと。
4. 指導上の留意事項
(1) 構え
構え方はすべて「中段の構え」とする。
「中段の構え」は右足をやや前に出し、左こぶしは臍前約ひと握り、左手親指の付け根の関節を
臍の高さで正中線に置く。剣先は「一足一刀の間合」においてその延長が相手の両眼の中央ま
たは左目の方向とする。
構えの解き方は、剣先を自然に相手の膝頭から3〜6センチメートル下で下段の構え程度に右斜
めに下げ、この時の剣先は相手の体からややはずれ、刃先は左斜め下に向くようにする。
(2) 目付け
目付けは、相手の顔を中心に全体を見ることとし、ここではお互いに相手の目を見る。
(3) 間合
ア. 立会いの間合はおよそ9歩の距離とし、3歩前進後における蹲踞しながらの木刀の抜き合わ
せと、技の終了した時点の間合は「横手あたりを交差させる間合」とする。
イ. 打突の間合は「一足一刀の間合」とし、この間合は個人の体格、筋力、技倆の程度などによ
り若干の差があることを指導する。
(4) 打突
ア. 打突は、充実した気勢で手の内を絞り刃筋正しく「物打」を用い、後足の引付けを伴って「一
拍子」で行わせる。
イ. 打突は、常に打突部位の寸前で止める空間打突となるが、刀で「切る・突く」という意味を
理解させる。
ウ.「掛り手」の打突動作は、「元立ち」が合気になって与える機会を逃がすことのないよう、的
確に捉えて「掛け声」とともに気合をこめて行わせる。
(5) 足さばき
足さばきは、送り足を原則とし「すり足」で行わせる。
(6) 掛け声(発声)
打突時に、「面(メン)、小手(コテ)、胴(ドウ)、突き(ツキ)」と打突部位の呼称を明確に
発生させる。
(7) 残心
打突後は、油断することなく相手に正対し、間合を考慮しながら「中段の構え」となって残心
を示させる。
元立ち、掛り手の動作についての解説
■立会い前の作法
元立ち・掛り手 同じ動作
@ 木刀を右手に提げ、下座で約3歩の距離で向かい合って正座し、木刀を右側に刃部を内側に、
鍔を膝頭に揃えて置き、互いに座礼する。
A 立ち上がり「提刀」のまま立会の間合いに進む。
B 先ず上座に立礼し、その後相互に立礼をする。
C 木刀を左手に持ち変えると同時に左手の親指を鍔にかけ「帯刀」となる。
D 右足から3歩踏み出して蹲踞しながら木刀を横手の間合いで抜き合わせ、立ち上がって中段
の構えとなる。
E 構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、立会の間合いをとり中段の構えとなる。
基本1 一本打ちの技 「正面」「小手」「胴(右胴)」「突き」 |
|
元立ち |
掛り手 |
@ |
前足から3歩で一足一刀の間合に進む。 |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
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間合いに接したとき剣先をやや右にひらく。
|
右足から踏み出し、「メン」の掛声で元立ちの正面を打つ。 |
B |
|
左足より1歩ひいて残心を示す。 |
C
|
中段の構えに戻す。
|
左足よりもう1歩ひいて一足一刀の間合に戻る。 |
D
|
機を見て剣先をやや上にあげる。
|
右足から踏み出し、「コテ」の掛声で元立ちの右小手を打つ。 |
E |
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左足より1歩ひいて残心を示す。 |
F
|
中段の構えに戻す。
|
左足よりもう1歩ひいて一足一刀の間合に戻る。 |
G
|
機を見て手元をあげる。
|
右足から正対に踏み出し、「ドウ」の掛声で元立ちの右胴を打つ。 |
H |
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左足から1歩ひいて残心を示す。 |
I
|
中段の構えに戻す。
|
左足よりもう1歩ひいて一足一刀の間合いに戻る。 |
J
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機を見て左足より1歩ひきながら剣先をやや右下にさげる。 |
右足から踏み出し、「ツキ」の掛声で元立ちの咽頭部を突き手元を戻す。 |
K |
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左足より1歩ひいて残心を示す。 |
L
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右足より1歩進み、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
左足より1歩ひいて、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
M
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構えを解き、左足から歩み足で5歩下がり、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本2 二・三段の技(連続技) 「小手→面」 |
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元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
|
間合いに接したとき剣先をやや上にあげる
|
右足から踏み出し「コテ」の掛声で元立ちの右小手を打つ。 |
B
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左足より1歩さがりながら剣先を下げずにやや右にひらく。 |
右足から踏み出し、「メン」の掛声で元立ちの正面を打つ。 |
C |
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左足より1歩ひいて残心を示す。 |
D
|
中段の構えに戻す。
|
左足よりもう1歩ひいて一足一刀の間合に戻る。 |
E
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右足より1歩進み、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
左足より1歩ひいて、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
F
|
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本3 払い技 「払い面(表)」 |
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元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
|
間合に接する
|
右足から踏み出しながら、木刀の表鎬を使って払い上げ、「メン」の掛声で元立ちの正面を打つ。 |
B |
|
左足より1歩ひいて残心を示す。 |
C |
中段の構えに戻し、横手の間合になる。 |
左足よりもう1歩ひいて、横手の間合に戻る。 |
D
|
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本4引き技(鍔ぜり合い) 「引き胴(右胴)」 |
|
元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
|
間合に接したとき、機を見て表鎬で掛り手の打込みに応じる。 |
右足から踏み出し、元立ちの正面を「メン」と掛声し元立ちの正面を打つ。 |
B |
右足より1歩前進し鍔競合いになる。 |
右足より1歩前進し鍔競合いになる。 |
C |
鍔競合いにより、掛り手の鍔元を押し返す。 |
元立ちの鍔元を押し下げる。 |
D
|
|
元立ちの手元が上がった機会を捉え、左足より1歩ひき振りかぶり、右足をひきつけると同時に「ドウ」と掛声し元立ちの右胴を打つ。 |
E |
|
左足より1歩ひいて残心を示す。 |
F
|
左足より1歩ひいて刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
左足より1歩ひいて刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
G
|
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で五歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本5 抜き技 「面抜き胴(右胴)」 |
|
元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
|
間合に接したとき、機を見て掛り手の正面「メン」の掛声で掛り手の正面を打つ。 |
右足をやや右斜め前に踏み出しながら振りかぶり、「ドウ」の掛声で元立ちの右胴を打つ。 |
B |
正対し左足より1歩ひく。 |
正対し左足より1歩ひいて残心を示す。 |
C
|
左足より1歩左に移り、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
左足より1歩左に移り、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
D
|
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本6 すり上げ技 「小手すり上げ面(裏)」 |
|
元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
|
間合に接したとき、機を見て右足から1歩踏み出し、「コテ」の掛け声で掛り手の右小手を打つ。 |
左足から1歩ひき、裏鎬ですり上げ、右足から1歩踏み込み「メン」の掛声で元立ちの正面を打つ。 |
B |
|
残心を示す。 |
C
|
左足より1歩ひいて、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
左足より1歩ひいて、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
D
|
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本7出ばな技 「出ばな小手」 |
|
元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
|
間合に接したとき、機を見て打込む気位で、右足を進ませながら剣先を上げようとする。 |
右足から踏み出し、小技で「コテ」の掛声で元立ちの右小手を素早く鋭く打つ。 |
B |
|
左足より1歩ひいて残心を示す。 |
C
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右足をひき、横手の間合いに戻る。
|
左足よりもう1歩ひいて、横手の間合いに戻る。 |
D
|
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本8 返し技 「面返し胴(右胴)」 |
|
元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
|
間合に接したとき、機を見て右足を1歩踏み出しながら「メン」の掛け声で掛り手の正面を打つ。 |
右足からやや右斜め前に出しながら、自分の木刀の表鎬で元立ちの打込みを迎えるように応じる。 |
B
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すかさず手を返して左足をひきつけながら「ドウ」の掛声で元立ちの右胴を打つ。 |
C |
正対し左足より1歩ひく。 |
正対し左足より1歩ひいて残心を示す。 |
D
|
左足より1歩左に移り、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
左足より1歩左に移り、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
E
|
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
構えを解き、左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。 |
基本9 打ち落とし技 「胴(右胴)打ち落とし面」 |
|
元立ち |
掛り手 |
@ |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
右足から3歩で前進し一足一刀の間合に進む |
A
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間合に接したとき、機を見て右足から1歩踏み出しながら、「ドウ」の掛け声で掛り手の右胴を打つ。 |
左足からやや左斜め後ろに体をさばく。
同時に元立ちの木刀を物打付近で斜め右下方に打ち落とす。 |
B
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|
すかさず間合いを勘案しながら右足から踏み出して「メン」の掛声で、元立ちの正面を打つ。 |
C |
正対し左足より1歩ひく。 |
正対し左足より1歩ひいて残心を示す。 |
D
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右足より右に移動し、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
右足より右に移動し、刀を抜き合わせた位置に横手の間合いで戻る。 |
■立会い後の作法
元立ち・掛り手 同じ動作
@ 互いに縁が切れないようにして、蹲踞して納刀する。
A 立ち上がり、「帯刀」のまま左足から歩み足で5歩ひき、元の位置に帰る。
B 帯刀を解き、右手に持ち変える。
C 先ず相互に双方注目しながら15度の立礼し、その後上座に30度の立礼をする。
D 「提刀」のまま下座に進む。
E 木刀を右手に提げ、下座で約3歩の距離で向かい合って左座右起の正座をし、木刀を右側に
刃部を内側に、鍔を膝頭に揃えて置き、互いに座礼する。